○協働のまちづくり〜行動計画と指針 広島県福山市
1.福山市訪問への経緯
私(内田)が定期購読している「公職研」という自治体職員向けの研修月刊誌の06年12月号誌上に、
同市まちづくり課、小畑和正氏の記事を読みました。
そこで私が注目したのは、同市が取り組んでいる次のような事業展開でした。
○市職員で構成する「在住行政職員の会」がまちづくりに参加している
○05年4月に「まちづくり推進課」を設置。その後06年4月に「協働のまちづくり課」
とした。
○協働のまちづくり基金を設立している
○「マッチングファンド」によりボランティアの人的貢献を算入した市の補助金制度
これら魅力的な事業展開について、詳しく勉強する必要を感じましたので、さっそく同市に視察を申し
入れ、前述の記事の執筆者である小畑氏ご自身に応対いただき、視察させていただくことができました。
なによりもまず、市役所の機構に「まちづくり課」というセクションが置かれていることが、以前から、
私は今日的に絶対に必要なことであると考えていました。事業の具体的内容はともかくとして、この名
に類した名称の部課、係を置いている市は、少なくとも視線が市民のほうに向けられている、と、これま
でも確信してきました。
このような背景から、今回、福山市を訪問する運びとなりました。
2.福山市の取り組む「協働のまちづくり」経緯と体制
同市が06年4月に発行した「まちづくり行動計画」概要版を、恵与いただきました。そこに、
「従来からまちづくりを担ってきた自治会・町内会やボランティア・NPO、各種団体、企業、そして市
民など地域で生活するすべての人々と行政が、今まで以上に連携を深めながら、まちづくりに取り組ん
でいくことが求められています」とあり、これまで、
05年 7月 「福山市協働のまちづくり指針」を策定
05年10月 「福山市協働のまちづくり推進懇談会」を設置
ここでの議論を経て、この「行動計画」の策定を見ました。
これに基づき、まず市役所内に
○「協働のまちづくり推進会議」…20人の部長級で構成
○「協働のまちづくりワーキング会議」…関係課長で構成
を編成。タテ割の行政組織を超えて横断的な取組み。協働のまちづくり課、ボランティアセンター、
コミュニティセンター、各支所などが連携する機構を作りました。
同時に市民のサイドでは、
○「学区まちづくり推進委員会」を結成
自治会、「福祉を高める会」、公衆衛生推進委員会、「明るいまちづくり」、小学校PT
A、青少年補導員協議会、女性会、体育会、老人クラブ、子ども会、交通安全自治会、
防犯組合、防火協会、自主防災組織、民生児童委員、消防団などがこれに加盟。特色
的なのはこれに加えて「行政職員の会」もここに参加していることです。これは市役
所職員がそれぞれ住んでいる地区の委員会に所属するものです。地区によって所属職
員の数はまばらですが、概ね1学区に10人〜100人がおります。
3.協働のまちづくり推進事業の概要
○学区まちづくり推進委員会が推進する事業
これまで行政内でバラバラだった補助金を統一。1億円とした。
学区の世帯数により割り、200万円〜90万円が1学区に交付される。
○学区提案型、ボラ・NPO提案型「キーワードモデル事業」
例えば「地域の安心・安全」などのテーマ(キーワード)を掲げて取り組む事業に補
助金を交付する。各学区30万円。
現在、安心安全をテーマにしている学区が39、福祉をテーマにしている学区が2。
他に教育、環境、活力などのメニューも想定している。
44提案の中から現在、18事業を採択。
公益性、協働の視点が条件。趣味的なものは採用しない。
○ふくやまの魅力づくり事業
地域の各種団体やボラ・NPO団体が対象。
市のまちおこしのシンボルである「ばら」のまちづくり、地域文化の掘り起こし、新
たな魅力づくりに取り組む市民団体に補助金を交付。
全体で1500万円、1事業に50〜100万円。毎年6月に募集、7月に審査する。
翌年5月に報告会を行う。
今年度は19団体から提案があり、うち11事業を採択。
※財源措置は基金とりくずしで対応する。
現在市制施行90周年だが、100周年までは基金とりくずしで、対応できる。
4.協働のまちづくりへの努力
○情報共有
広報紙、ホームページでの情報提供、パブリック・コメントの実施、まちづくり出前
講座、市民参画センターやボラセンターでの情報提供
○人材育成
協働リーフレットで事例紹介、市役所内部での研修、講座、ワークショップ開催や職
員向け「ハンドブック」、地域ではリーダー養成講座、まちづくり講演会・講座、人材
ネットワークシステムの構築、など
○評価・公開
協働のまちづくり事業審査会の設置、評価・公開ガイドラインの確立、アンケート調
査の実施
5.ユニークな取組み「人件費換算分」算入=「マッチング・ファンド」
前述の「ふくやまの魅力づくり事業」において、事業展開に必要なボランティアの人的貢献を「人件
費」と見立てて必要経費に算入させ、補助対象とするシステム。
アメリカでは多く採用されており、福山市ではシアトルのシステムを参考にした。
例:
自己資金10万円 →市補助金は10万円
↓
自己資金10万円+人件費換算分90万円=100万円 →市補助金は100万円
具体的には、1時間500円×人数×時間数 で人件費を算出する。
6.補助金交付対象事業の実例(一部)
○ふくやまの魅力づくり事業
・ライトフェスタ事業…回収したペットボトルを活用して光の芸術イベント
・宇治島サニーアイランドクリーン作戦…無人島の環境アップと青少年育成
・「古墳ロード」整備事業…古墳の保存、教育に役立てる
・地域食材販売ふれあい事業…地域の女性部が販売店舗を開設
・全日本折り紙ヒコーキ大会…子どもたちの健全育成と世代間交流
・つれのうてフェスタ…まちづくりリーダー研修や事例紹介
・ばらのまち福山…ばら会が「ローズブック」の作成とシンポジウム
・朗読劇公演…「福山空襲」を通じて平和のまちづくり
○キーワードモデル事業
・環境浄化事業…EMを利用した環境浄化実践と勉強会
・「チャイルドラインびんご」…子どもの居場所づくり
・学区ホームページ開設…IT町内会の構築で住民の関心を喚起、パソコン教室も
・青少年の活動の場づくり…市PTAによる事例発表、講演会
・ボランティア体験事業…ボラ協による体験の旅、相談会、講演会
・「備後弁ぬりえカルタ」…食の大切さを備後弁のカルタで学習、啓発
・多文化共生のまちづくり…在住外国人の市民参加と交流のためのイベント
・ホタル等ビオトープ事業…ホタルの数を競い、環境向上
・中学生が輝く演劇ステージ…中学生の表現力、創造力、協調性をアップ
・DV理解講座…市民の関心を高める連続講座
・日本語サポート事業…在住外国人のための孤立しない地域づくり
・劇や遊びの出前事業…地域のことを子どもたちに知ってもらう劇などを出前
・異世代教育交流事業…ハーブ栽培を通じての作業療法など
・商店活性化…若者(短大生)の視点で店構えを見直し、改善提案など
7.市民活動総合補償保険制度
○保険料全額市が負担。人口46万人対象に年間経費は1000万円。
○市民活動中の事故や指導者が参加者に損害を与えた場合に適用。
○対象は、市民活動団体が行う地域社会活動、青少年健全育成活動、環境保全活動、防
犯・防火、防災活動、社会福祉、社会奉仕活動、保健衛生活動などで、継続的、計画
的または臨時の公共性のある無報酬の活動。親睦行事は含まない。市主催行事含む。
○対象にならない事例
・スポーツ少年団主催の大会で参加者が試合中に負傷
・町内会主催の盆踊り大会で、見物に来ていた子どもが自分で転んで負傷
・町内会の旅行や花見での事故
・町内会清掃で、集合途中での自動車事故
○保険の内容
・賠償責任 対人 限度1名1億円
対物 財物1事故1000万円、保管物1事故100万円
・障害保険 死亡 500万円 後遺症 15〜500万円
入院 1日3000円(180日以内)
通院 1日2000円(180日以内の通院90日)
○その他
・全国市長会や、一般の民間保険会社も取り扱っている。
・加入単価は20円/人
・事故発生件数は年間200件
8.感想
担当者の方からお聴きした内容で、上記に書けなかったものをここで補足しますと、
・現在、市内にあるNPOは12団体、ボランティア団体の数は200。
・福山市では2年前に現在の市長が就任。まず「町内会を主体に!」と号令をかけた。
・視察でいただいた市広報にも紙面を大きく割いて市民活動の模様が紹介されている。
広報は新聞折込の手法で配布。全国3大新聞を含む7新聞に折り込む。
・市職員で構成する在住行政職員の会のメンバーも学区の組織で積極的に副会長や事務
局長を務めている。なお、市外在住の市職員も4000人中800人ほどいるが、こ
れに参加はしていない。
・自治会加入率は72.3%。
・「市民参画センター」はボランティア団体の連合体、15名が管理運営している。年末
年始のみ休館。公設民営。旧社会福祉協議会の建物。
・ポイントは人材づくり、人材発掘だ。社会教育の再構築だ。
・市のタテ割りを廃し、地域住民といっしょに事業を推進していくことだ。地域の人だ
けではできないこともあり、その場合に、行政も出向いて「いっしょにやろう」との
姿勢が、次第に定着しつつある。例えば危険なため池が放置されていた。「役所が何と
かしろ」が従来の考え方だが、「地元がその後の管理をしてくれるなら、市現業職員も
動員し、改善しましょう」と結着した。
職員の意識の中で、「まちづくりが柱だ」との意識が固まりつつある。一見、住民とは直接関わら
ない仕事に従事している職員も、自分の仕事が住民やまちづくりに関わるものだとの意識を高めつ
つある、と、担当者は述べられていました。
いただいた資料の中に散見される「つれのうて」という言葉は、ご当地弁で「連れ立って」という
意味だそうです。まさしく協働のまちづくりにふさわしいキーワードだと思います。
福山市のまちづくり行政は、しっかりと日本の地方の来るべき姿を見据えている、と感じます。未
来のために仕事をしている、と。
それは、現実にはさまざまな困難も伴うことは想像に難くありません。うまくいかないことも多々
あろうと想像します。丸亀市の行政マンは、「それは福山市の民度が高いからできるのだ」とうそ
ぶくかも知れません。が、どんなに丸亀市の現在の「民度」が低くても、それはまちがいなく、いま
の行政が最優先で取り組まねばならないことです。すなわち市民の協力を求めるのでなく、すでに
太古の昔から、まず市民ありき、であったことに気づき、地方行政がその本来の姿を創出する、そ
して市職員が本来の業務の発想を打ち立てる、ということに他なりません。
さて、たとえば福山市が構築した補助金制度をそっくりそのまま丸亀市で採用したとしましょう。
それでも実際に、市民や市民団体から一向に、事業の提案・応募がなかったとします。
それだから、「やめる」ということに、なるでしょうか。
絶対に、なりません。
さらに丸亀市の現状にマッチした方式を編み出し、譬えがまずくて恐縮ですが、「寝た子をとこと
ん起こす」まで、役所はこの課題に挑戦しなければなりません。
それでこそ、役所が「未来のために仕事をしている」ことになるでしょう。
私ども議会人には残念ながら執行権限がなく、議会でこのことを声高に叫ぶことしかできません。
願わくば、他の同僚議員諸兄の同意を得て、大きな市民の声となってこのことを市政に訴え、実現
させていくことができますように。そのための努力も、私どもに課せられた仕事であるかとあらためて
心に刻んでおります。